猿飛佐助の葛藤

表紙サンプル


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佐助が主役の本みたいです。(いや主役なんですけど)

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 極度の寒がりではなくても本格的な冬に向かうこの時期、朝夕の冷え込みは時折厳しくなる。
 佐助が出かけに羽織った上着は案外薄く、吹き抜ける風が身体を冷やした。大丈夫なんて思わないで、せめてマフラーくらいしてくるんだった、と小さく後悔しながら佐助は薄手の上着のポケットに手を突っ込んで足早に通りを抜けた。


 インターホンを鳴らすとすぐ開いた扉の隙間から、佐助はするりと中へ入り込む。最近見慣れてきたシックな色合いの玄関はほんのり暖かく、肩からほっと力を抜いた。
「はいどうもこんばんはーっと」
「Ya…今日も時間ぴったりだな」
「そりゃもちろん。遅れたらぶっ飛ばされちゃう」
「任せろ、全力でしてやるぜ?」
「こわっ!やだやだ冗談に聞こえないところが嫌」
「本気だからな」
「酷いなぁ」
 軽口を叩きながら短い廊下を歩く。佐助はそばに立つ政宗から仄かな珈琲の香りがすることに気が付いて、コッソリ口元を緩ませた。
 政宗は構わないように見えてそうではない。その一端は四季折々で何かしら飾り(今は一輪挿しに紅葉の枝)が置かれた玄関に見受けられる。佐助は最初誰かが置いていくのだろうと思っていたが、実はそうでは無い。佐助が訪れる時間に合わせたように部屋に満ちた珈琲の香りも、気紛れに添えてある茶請けも。どれも政宗が自身でしていることだと聞いたとき、佐助は驚きのあまり本人を目の前にして全力で否定してしまったものだ(直後凄まじい視線で射抜かれたことは佐助の忘れられない出来事でもある)
 そんな勉強前に必ず出される一杯の珈琲は、以前緑茶や紅茶などその日によって変わっていた。それがいつからか珈琲が主流になり、今ではそれ以外が出てくるほうが珍しい。
 理由は何でも構わない、と佐助は思う。
 政宗が単に珈琲党だとか、そんな他愛無い理由で構わない。なにせ下宿先では珈琲といえばインスタントが当たり前になっている現状、政宗の部屋で飲むドリップされた珈琲は一つの楽しみにもなっていたからだ。
 高校生にも関わらず、1LDKに住まう政宗はリビングダイニングから「先に部屋行ってろ」とばかりに勉強部屋へ続くドアを指差す。
「あいよっと」
 軽く返事を返し、佐助は先に勉強部屋へ入った。

 部屋のクローゼットに隠れるように置かれた予備の椅子は、もう佐助専用と言ってもいい。邪魔にならないように避けられていた椅子を、がたりと机の横へ移動させ座った。
 机の上には放置された古典の問題集。ひょいと手を伸ばし捲ると、随分先のページに丸が一つと日付が書かれている。提出期限なのだろう。
「今日は古典かな?」
 ぱらぱらとページをめくりながら、佐助は政宗が来るのを待った。